椿は鼻息を荒くしながら茶屋ののれんをくぐった。店内はたいそうにぎわっていた。五つある長椅子の四つには先客がいる。
長椅子は大人四人ほどが腰掛けられるほどの大きさだった。椿と瀧はその中央に二人で座る。
「やぁ、これはまたべっぴんさんだね。いらっしゃい」
恰幅のよい店主がさっそく、茶と団子を運んでくる。
「わぁ、おいしそう。いただきまーす」
団子の串をつまみ、口を大きく開けて頬張る。ほどよく弾力があり、甘さもちょうどよい。
「んん」
もぐもぐと口を動かしながら団子の味を噛み締めていると、
「――ここ、いいかな?」
声がしたほうを見上げる。
思わず、手に持っていた団子を落っことしそうになった。
心臓をぶち抜かれるというのはこういうことに違いない。
穏やかにほほえむその人のすべてに、椿は瞬《まばた》きひとつのあいだに魅了された。
金の髪はまるでそれ自体が光を発しているようにまばゆい。薄茶色の瞳は優しさをたたえていて、穏やかに上がった口の端が極上のほほえみを与えてくれる。
ドクン、ドクン。見つめている時間が長くなるほど、目が離せなくなるような気がした。
その人が小首を傾げる。ああ、そういえば――「いいかな」と訊かれたのだった。
なにが「いい」のかわかりもせずコクコクとうなずくと、男性は「ありがとう」と言って椿のとなりに腰を下ろした。
(ああ、満席だから……)
男性は椅子の端のほうに座った。もっと近くてもいいのにと思ったが、それはそれで緊張してしまいそうだ。
恰幅のよい店主が、茶と団子が載った盆を持って男性のところへやってきた。
「おや、白夜さま。またこのようなところにいらして」
男性は盆を受け取りながらニッと笑う。人懐っこい笑みだ。
「ここの団子がうますぎるから仕方ないんだって」
「――白夜、さま!?」
突然、口を開いたのは瀧だ。目を剥いて、金髪の男性を凝視している。
「つかぬことをお伺いしますが、もしや……紅国主さまの弟君であらせられますか?」
男性はほほえんだまま団子を食べたあとで、
「うん、そう。……あらせられる、なんて初めて言われたな。弟君っていうのも。なんだかむずがゆい。もっと気軽に――そうだな、名前で呼んでもらえると助かる」
困ったように笑う彼の名を、椿は無意識的に呼んだ。
「……白夜さま」
惚けたようすでつぶやく椿を見て瀧は苦笑する。
「その……こちらは暁国二の姫、椿さまでございます。どうぞ、お見知りおきを」
「ああ、きみが……! ――って、なんで姫さまが団子屋にいるの」
椿はぎくっとして身を硬くする。瀧は顔を赤らめるばかりでなにも答えない。自国の姫が「団子が食べたい」と言って寄り道している、とはさすがに言いづらいのだろう。
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長椅子は大人四人ほどが腰掛けられるほどの大きさだった。椿と瀧はその中央に二人で座る。
「やぁ、これはまたべっぴんさんだね。いらっしゃい」
恰幅のよい店主がさっそく、茶と団子を運んでくる。
「わぁ、おいしそう。いただきまーす」
団子の串をつまみ、口を大きく開けて頬張る。ほどよく弾力があり、甘さもちょうどよい。
「んん」
もぐもぐと口を動かしながら団子の味を噛み締めていると、
「――ここ、いいかな?」
声がしたほうを見上げる。
思わず、手に持っていた団子を落っことしそうになった。
心臓をぶち抜かれるというのはこういうことに違いない。
穏やかにほほえむその人のすべてに、椿は瞬《まばた》きひとつのあいだに魅了された。
金の髪はまるでそれ自体が光を発しているようにまばゆい。薄茶色の瞳は優しさをたたえていて、穏やかに上がった口の端が極上のほほえみを与えてくれる。
ドクン、ドクン。見つめている時間が長くなるほど、目が離せなくなるような気がした。
その人が小首を傾げる。ああ、そういえば――「いいかな」と訊かれたのだった。
なにが「いい」のかわかりもせずコクコクとうなずくと、男性は「ありがとう」と言って椿のとなりに腰を下ろした。
(ああ、満席だから……)
男性は椅子の端のほうに座った。もっと近くてもいいのにと思ったが、それはそれで緊張してしまいそうだ。
恰幅のよい店主が、茶と団子が載った盆を持って男性のところへやってきた。
「おや、白夜さま。またこのようなところにいらして」
男性は盆を受け取りながらニッと笑う。人懐っこい笑みだ。
「ここの団子がうますぎるから仕方ないんだって」
「――白夜、さま!?」
突然、口を開いたのは瀧だ。目を剥いて、金髪の男性を凝視している。
「つかぬことをお伺いしますが、もしや……紅国主さまの弟君であらせられますか?」
男性はほほえんだまま団子を食べたあとで、
「うん、そう。……あらせられる、なんて初めて言われたな。弟君っていうのも。なんだかむずがゆい。もっと気軽に――そうだな、名前で呼んでもらえると助かる」
困ったように笑う彼の名を、椿は無意識的に呼んだ。
「……白夜さま」
惚けたようすでつぶやく椿を見て瀧は苦笑する。
「その……こちらは暁国二の姫、椿さまでございます。どうぞ、お見知りおきを」
「ああ、きみが……! ――って、なんで姫さまが団子屋にいるの」
椿はぎくっとして身を硬くする。瀧は顔を赤らめるばかりでなにも答えない。自国の姫が「団子が食べたい」と言って寄り道している、とはさすがに言いづらいのだろう。