双鬼と紅の戯曲 ~君主は秘かに専属侍女を愛でる~ 《 第二章 03

 椿は瀧の顔と手もとの団子を交互に見つめる。

「そっ、それは……その、従者の瀧がどうしてもお団子が食べたいと申しまして! 私は付き添いで……っ!」

 そうして椿が引きつった笑みを浮かべると、瀧は赤い顔を思いきりしかめた。
 瀧の視線が痛くて仕方がないが、とてもではないが本当にことは言えない。初対面だというのに、食いしん坊だと思われてしまう。

「そっか。この茶屋の団子はどう? 姫さまのお気に召したかな」
「はい、とても!」

 白夜は「よかった」と言ってまたほほえむ。
 こんなにも素敵な笑顔に出会ったことのは初めてだ。その笑顔を見ているだけで幸せな気持ちになる。
 すっかり白夜に見とれる椿の肩を、瀧はそっと小突く。

「姫さま、団子が落ちそうになってますよっ」

 瀧に小声で言われ、椿はあわてて団子の串を持ち直した。そそくさと団子を平らげ、お茶を飲む。

「それで、ふたりはもしかして紅の城へ向かうところ?」

 瀧が「左様でございます」と答える。
 皆が茶と団子を食べ終えたのをちらりと確認したあとで、白夜はふたりに提案する。

「じゃあ案内をかねて一緒に行こうか」

 白夜は懐から小銭を取り出し、「ごちそうさま」と口添えして店主に手渡した。一人分にしては多いような気がする。
 瀧が財布を出すと、店主は

「白夜さまが三人分お支払いになりました」

 と言うではないか。
 椿は白夜を追いかけて茶屋を出ながら彼に礼を述べる。

「白夜さま、ありがとうございます。なんだか申し訳ないです」
「ううん、相席させてもらったし。それに、城まできみたちの馬に乗せてもらおうかと思って。いいかな」
「もちろん!」

 椿は満面の笑みになって、木の幹にくくりつけていた手綱をするするとほどいていく。

「へぇ、姫さまは一人で馬に乗るのか」

 女性の身で、と嫌な顔をされるだろうかと思ったが白夜は笑って言葉を継ぐ。

「あぁ、でも俺が姫さまの馬に乗るのはまずいか。じゃあ……」

 白夜が瀧のほうを見やる。

「いっ、いいえ! よろしければ私の馬にどうぞ」
「――姫さま!?」

 かたわらで馬の準備をしていた瀧が上ずった声を出した。
 椿は「なによ、いけないの!?」と表情だけで瀧に訴えかけて、白夜に向かって「さあどうぞ」と乗馬をうながす。

「じゃあ、遠慮なく」

 白夜は軽やかに跳躍して馬に乗った。長身なので、踏み台がなくとも余裕がある。そんな姿にまた胸がときめく。
 白夜が手を差し向けてくる。その手を取ると、グイッと力強く引き上げられた。

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