双鬼と紅の戯曲 ~君主は秘かに専属侍女を愛でる~ 《 第三章 04

「ん、くすぐったい……です」

 極夜は鈴音の耳たぶを舌でくすぐりながら、両手で体を撫でまわした。わき腹のあたりに手を這わせられるとよけいにくすぐったくなって、笑い出してしまいそうになる。

(くちづけだけじゃ足りない、っていうのは……)

 吸血しなければ気がおさまらないということだろうか。それにしては、極夜は耳たぶを食むばかりで血を吸おうとはしない。
 体を撫でまわしていた彼の手が、帯をゆるめにかかった。

(やっぱり、血が飲みたいのね)

 鈴音はされるがままだ。吸血されることには慣れている。彼に血を捧げるべく、日ごろから鉄分の多い食事を心がけている。
 帯が完全に解け、ストンと畳の上に落ちた。

(あ、あれっ……?)

 いつもなら帯はゆるめられるだけで、解かれはしない。
 羽織っている着物の衿合わせを襦袢ごと左右に広げられて肩から落とされれば、着物は肘のあたりまで袖を通しただけの半裸状態になる。
 乳房も、それから下半身の茂みもほとんど隠せていない。

「え――あ、あのっ!?」

 たんに吸血されるだけならここまで肌をさらす必要なんてない。なにかべつのこと――このあいだされたようなことがふたたびあるのでは、とようやく気がついた。

「足りない、と言った」

 だからいいだろう、と言わんばかりだ。極夜は鈴音の首すじをベロリと舐めあげ、豊かなふくらみをうしろからわしづかみにする。

「ぁ、っ……!」

 胸をつかまれるのははじめてではないが、とてつもない羞恥に見舞われる。頬にカッと熱がこもり、手足の先がジワリと汗ばんでくる。

「極夜、さま……っ」

 意味もなく彼の名を呼ぶことで羞恥心を紛らわそうとしていたのかもしれない。
 だが極夜は「鈴音」と呼び返してきた。よけいに恥ずかしくなって、鈴音は口もとを手で覆う。
 名前を呼び合うだけでこんなにも幸せな気持ちになれるなんて、知らなかった。涙があふれそうになる。
 極夜が大きく息を吸い込んだのがわかった。

「かぐわしい」
「……!」

 彼はどうしたのだろう。短い言葉ばかりだが、今日はいつもの倍以上に口数が多い。
 しかも、耳のすぐそばでかすれ声を出すのだ。本当にたまらない。
 極夜が首すじを舌でたどりはじめた。胸を揉む手つきも激しくなり、ときおりいただきをかすめる。

「んん、んぅ……っ」

 薄桃色の乳輪を指と指のあいだでフニフニと押されている。そこへ、首すじに牙を突き立てられた。
 もう、どこを意識すればよいのかわからなくなる。

「ふっ、う……ん、んぁ……!」

 吸血されることでいっきに恍惚境まで引き上げられる。しかし胸飾りをいじる指は緩慢で、吸血にしてもごく少量だ。

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