双鬼と紅の戯曲 ~君主は秘かに専属侍女を愛でる~ 《 終章 01

 白無垢に身を包んで極夜のとなりに座るのを――夢に見なかったわけではない。
 しかし実際にそういう場面になると、まるで夢のただなかにいるようだった。
 極夜と鈴音の祝言はふたりの想いが通じ合って間もなく執り行われた。極夜いわく、「周囲に早く知らしめたい」とのことだった。
 大広間に無数の四つ足膳が並んだ宴の席で、上座の近くに座っていた白夜はあぐらをかいて「ふう」と息をつく。

「まったく、やっと二人がくっついてくれて俺も一安心だよ。昔からけっこうお膳立てしてきたつもりなんだけどね?」

 そのかたわらにいるのは暁の二の姫、椿だ。「うんうん」といったようすで大きくうなずいている。ふたりともだいぶん酔いがまわっているようだった。

「ありがとうございます」

 鈴音はふたりに礼を述べたが、極夜のほうは酒を飲むばかりでなにも言わなかった。照れているのだと思う。

(私も極夜さまも……想いは隠していたつもりだから)

 しかし周囲にはずいぶんと前から知られていたようだ。当人たちが気づいていなかっただけなのである。
 鈴音はにっこりとほほえんで極夜の顔をのぞき込む。「恥ずかしいのですか?」と尋ねると、彼の顔はますます朱を帯びたのだった。



「――ん、極夜さま……」

 宴のあと、鈴音は極夜の寝所にいた。これからは毎夜、彼と褥《しとね》をともにする。

「おまえの白い肌には白い着物がよく似合う」

 言いながら、極夜は鈴音の体をうしろから抱き込み帯をゆるめていく。隙のできた衿合わせに手を入れ、乳房だけを外へ逃がす。

「ぁっ……」

 胸だけがさらけ出た恰好になってしまった。腕で前を隠すものの、極夜の両手は難なく乳房をつかみ、ぐにゃぐにゃと揉みしだきはじめた。彼の黒い紋付きの羽織が白無垢の袖とこすれあう。

「ゃ、んっ……んん」

 首すじを甘噛みされ、にじんだ血をすすられる。

「乳房を揉みながらの吸血は極上だ。……おまえはどうだ?」

 彼は前よりも口数が多くなった。いまは酒に酔っているから、よけいにそうなのかもしれないが。

(話をしてくれるようになったのはいいけれど……そういうことは、聞かないでほしい)

 鈴音が言いよどんでいると、極夜はふたたび「どうなんだ」と答えを急かしてくる。

「ん、あぅ……気持ち、いい……です」

 満足のいく答えを得たからか、極夜は口の端を上げてほほえむ。そうして笑んだまま、

「じつは……吸血のあとはいつもおまえの体をまさぐっていた」

 と告白され、鈴音は「へっ!?」と頓狂な声を上げながら彼を振り返った。

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