森の魔女と囚われ王子 《 年越し番外編 03

 根野菜のシチューを食べ終えたリルはソファに座ってのんびりとハーブティーを飲んでいた。
 その格好では洗い物ができないから、といってオーガスタスが皿洗いをしてくれている。それでなくても、後片付けは彼がしてくれることが多い。

「――お疲れ様、オーガスタス。ハーブティー、飲むでしょ?」

 洗い物を終えてソファの前へやってきたオーガスタスに向かって言った。ところが返事は予想外のものだった。

「ううん、いらない」
「え……」

 ふだんならふたつ返事で「飲むー」と返してくるのに、今夜はどうしたのだろう。
 オーガスタスは薄く微笑んだまま、ソファに座るリルの体を両腕で囲った。

「リル、きれいだよ……。でも、素直に喜べないな」

 複雑そうな表情を浮かべてオーガスタスは続ける。

「これを着せたのがマレット男爵だと思うと、ね……。僕以外の男にあなたが愛でられていたと思うと――」

 頬に添う手はつめたい。熱を奪われているからか、あるいはべつの期待からか下半身の秘めた奥底が震え始める。

「え、と……」

 謝るべきなのだろうかと悩んでいるあいだに、唇を塞がれた。

「んくっ、う……!」

 息をつくすきのない荒々しい口付けだ。性急に舌を絡め取られ、じゅぷじゅぷっ、ときつく吸い上げられた。ふだんと違って彼は急いている。いつもはもっと、ねっとりとじれったく攻められるというのに――。

(嫉妬、してるの……?)

 そう自覚すると、下半身の疼きがいっそう顕著になった。ひとりでにびくびくと脈動しているのがわかる。

「……っん!」

 リルの黒髪がふわりと舞い、四分儀を描く。
 唇を塞がれたままソファに押し倒された。オーガスタスはリルに馬乗りになり、彼女の胸もとをまさぐる。

「……脱がせかたがわからないな、これ」

 手際がよく、なにごとも器用にこなすオーガスタスだが、異国の服には手を焼いている。堅牢な胸もとをどうするべきかと考えあぐねているようすだ。

「ここをゆるめればいいのかな」

 好奇心に富んだ声音でつぶやき、オーガスタスは黒地に金の蝶が舞う、しっかりとした素材の帯に手をかけた。

「ふ、ぅっ」

 胸の下の帯を強く引っ張られ、息苦しくなる。しかし彼の読みどおり、胸もとはいくらかゆくるなった。しめた、とばかりにオーガスタスは自身の唇の端をひと舐めして、リルの振袖を脱がせ始める。

「これ……一枚一枚は薄いのに、コルセットよりも頑丈だね? なかなかおっぱいにたどり着かない」

 一番上の布の下にも何枚か生地があった。オーガスタスはそれを一枚一枚むいて、肩から落としていく。
 最後の砦であるシュミーズも、ほかと同じように肩から落とされ、払われてしまった。

「……ん、出てきた」

 オーガスタスは嬉しそうに言葉をつむいで顔をほころばせている。リルが恥ずかしがって胸を隠そうとするということは、彼にはお見通しだ。そうできないように、あらかじめ彼女の両腕をソファの座面に押し付けている。

「あれ……。少し汗をかいてる?」
「う、ん……っ」

 何枚も重なっていた布は保湿性が高く、また彼に脱がされているあいだに興奮してしまったらしく、指摘どおり汗をかいていた。
 その汗を、オーガスタスが舐め取る。

「やっ……、やめて、オーガスタス……ッ。っぁ、ん……!」

 無遠慮に乳房全体を舌で蹂躙され、ぞくぞくと総毛立つ。

「塩気がきいていてすごくおいしいよ、リル」

 にいっと笑い、オーガスタスはすぐにいただきにかぶりついた。

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